Visite long

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Visite long(ヴィジット ロング)
1892年イギリス 「ジャポニズム」の文脈を組み込んだヴィクトリア末期の衣服です







【 ヴィジット ロング丈 】

参考にした当時の製図書にはThe Duchess(公爵夫人)モデルと名付けられています

「公爵」とは、英国貴族の爵位のなかでトップに位置します
その名の通り、このヴィジットは堂々たる威厳ある仕立てになっています

最大の特徴は「振袖」のように長い袖です
身体のラインを覆い隠すかのように、背中から袖が生えています 
其の実、袖に隠されたボディウエストはしっかりと絞らており、秘めた女性性も感じさせます


半・分解展で販売しているヴィジットの型紙は3種類あります
今回紹介している「ヴィジット ロング」の他、「ヴィジット ショート」「クリノリン ヴィジット」です

同じヴィジットでもそれぞれに異なる個性があるので、つくる度にちがった発見があるでしょう

ショートとロングに関してはヴィクトリア後期に流行した【バッスル】と呼ばれるお尻を膨らますスタイルになっています



ヴィジット ロングの圧倒的な存在感
裾まで垂れ落ちる袖は、周りの視線を惹きつけます


袖のしたに隠された身頃はしっかりとウエストが絞られており、二面性のある造形意匠に驚かされます




ヴィジットは肩幅が小さめのつくりですが、ご安心ください。
肩幅を補填するために、特殊な構造の袖になっているので、ちゃんと着られます。

サイズを選びの基準として「胸囲のヌード寸法」が参考値になります。
まずは、ご自身の胸囲にメジャーを当てて、ヌード寸法を出してみてください。

例えば、あなたのヌード寸法が83cmの場合は、サイズ1または2
91cmの場合は、サイズ3または4
101cmの場合は、サイズ5か6がぴったりになります。

例えば、S M Lサイズで表すと下記のようになります。



レディースの場合は「1」がMサイズや9号と同等のサイズ感になります。
普段Lサイズを着ている方は「2」や「3」を選ばれます。

メンズの場合は「3」が、Mサイズの目安となるでしょう。
細身の男性で「1」を選ぶ方もいます。

迷ったときは「大き目のサイズを選ぶ」ことをお勧めしております。


サイズ選びで迷った時は、問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

下記、着用画像も参考にされてください



153cm女性
サイズ1着用
ややゆったりした着心地です



















袖のなかに手を入れてみると、また違った見え方になります
どことなくチャイニーズ風な印象も感じますね








真横からみたときの、S字にくびれたシルエットが美しいです



170cm女性
サイズ1着用
ジャストサイズです



















サイズ選びの参考にされてください






ヴィジットの縫い方動画もあります
製作時の参考にしてください






アメリカのとある製図書では、ヴィジットの袖を「ジャパニーズスリーブ」として紹介しています

ヴィジット ロングに関しては「振袖」をモチーフとしたようなデザインになっています


【 1889年11月1日 フランスのファッションプレート 】

左から3番目の女性が、まさに「ヴィジット ロング」を着用していました



茶色のジャガード生地、袖には黒いコード刺繍でしょうか?
胸飾りの太いロシアンブレードも非常に素敵です



ロサンゼルスのFIDMミュージアムには、1885年に着物をつかって仕立てられた大変美しいガウンが展示してあります
袖の構造はヴィジットに近いものを感じます

このようにジャポニズムを彷彿とさせる歴史的アーカイブは決して少なくありません



半・分解展の会場では、実際に着物にヴィジットを合わせてみる方もいました
19世紀の構造美は、現代にも充分通用します

着物のうえに羽織る個性的なコートとして、ヴィジットを選択肢に入れるのはいかがでしょう?



まるで「着物を魅せるための額縁」のようです







型紙を購入してくれた「じんさん」は、ご自身で素晴らしいヴィジットを仕立てられました
奥様へのクリスマスプレゼントとのこと...本当に素晴らしい仕上がりです



海外美術館のアーカイブにも、思わずため息が漏れてしまう美しいヴィジット ロングがあるので紹介します



漆黒のジャガードシルク生地に贅沢なファーのトリミング



19世紀半ばに流行したインド製ショールをヴィジットにリメイク



袖部分を短くアレンジすれば、このようなスタイルにもなります
随分とスタイリッシュな印象に早変わりです



【トワルで試作したヴィジット ロング】

白い生地でつくると、またガラッと雰囲気が変わります
布の面積が大きい構造なので、皆さんも製作させる際は生地選びを存分に迷ってください
生地の魅力が栄える造形美です




さまざまな素材、デザインでヴィジットの製作を愉しまれてください
自分の手で、特別な1着を縫い上げるのは贅沢な時間になるでしょう


1891年アメリカ


1877年フランス



ここからは、私が製作したヴィジットをより深く紹介していきます
まずは「ヴィジット ロング」のディテールに迫ります



左端が製作した「ヴィジット ロング」



【 隠しポケット 】

右の腰部分にはポケットを忍ばせました
大きな袖に隠れてしまうので、通常は見えることはありません


袖をめくり上げると隠しポケットがみえてきます


スマホが入る縦長の設計にしています


【 真横からの特徴 】

ヴィジットロングは、真横から見たときのシルエットが最も美しいと感じています
その理由は「抜衣紋の衿」と「んの字の肩」この2つです
詳しく紹介していきます


【 1:抜衣紋の衿 】

まるで和服の抜衣紋のように、衿が後方に抜けて反り立つ設計になっています


【 抜衣紋の衿 】

真上から確認してみると、その独特な構造がより理解できます
衿が「三角形」のかたちになって、首の後ろにゆとりが生まれています


【 抜衣紋の衿 】

衿を返して着用したときも、後方にゆとりが確認できます
洋服と和服の特徴を上手く組み合わせていますね


実際に和服に合わせて抜衣紋にしてみると、このような感じです



【 2:「ん」の字のショルダーライン 】

私が好きなのは「ショルダーライン」です
後方に下がった肩線と、イセがたっぷりと入った袖山

この両者が揃うことで、平仮名の「ん」の字が浮かび上がります
んの字は、半・分解展の衣服すべてに見られる特徴です
ぜひ真横から覗いて「ん」を探してみてください



【 花の蕾 】

衿のかたちは、まるで花の蕾のように丸く上品に咲いています
これだけ丸みの強いラウンドカラーでありながら「可愛い」に振り切るわけでなく、上品にまとまっている理由は上記の抜衣紋の設計が挙げられるでしょう
絶妙なバランスで成り立っています



もちろん折り返しても綺麗に収まります
小ぶりなラウンドカラーとなり、見た目の印象もガラッと変化します




【 ウエストベルト 】

ヴィジットに限らず、ヴィクトリアン時代の多くの衣服には「ウエストベルト」が内側に仕込まれています
大抵の場合、背中の中心に縫い付けられます

ウエストベルトを付けることで、身体と衣服のウエストが密着し、コルセットをした時代の理想的なシルエットが表現できます

もちろん現代でコルセットをすることは、あまりないかもしれませんがウエストベルトをするだけヴィジットのシルエットが抜群に美しくなるので、製作する方にはぜひ取り入れていただきたいディテールです



【 ウエストベルト 】

ご自身のウエスト寸法から「+4~6cm」ほどで長さを設定し、取り付けると良いでしょう
例えば、ヌードのウエストが65cmの方でしたら、70cmあがりでつくって試してみてはいかがでしょうか
ウエストベルトを締めると姿勢が良くなり、なによりヴィジット本来の造形美が際立ちます



【 内側の設計 】

ヴィジットの内側の設計は、複雑です
詳しくは動画で解説します(こちらです)

初めは「総裏」仕立てでつくることを強くお勧めしておきます
私のように背裏仕立てでつくると余計に難しいでしょう

また、無理にミシンで処理しようとせずに手縫いを駆使しながらつくる方が簡単です


1881年アメリカの製図書「ドレス&クロークカッター」に、ヴィジットの複雑な構造を象徴するような一文があります


ヴィジットの特徴は、つくりの難しさにあります
なぜなら、ゆるい羽織りでありながらもジャケットのかたちでなければいけないからです

 腰を絞りあげ、身体に密着されるために背中の内側にウエストベルトを入れて独特なシルエットを保持する必要があります
袖は優雅にみせるために、ちょうど良い膨らみで設計しなければいけません

多かれ少なかれ、ヴィジットを着用すると同じフォームになってしまいます(ヘソで手を重ねるポーズ) 
デザイン上の幾つかの困難を克服するために、原理を習得し、知的なデザインをしなければいけません


文章からも当時の技術者が苦労してヴィジットを製作したことが垣間見えます


















これでヴィジット ロングの紹介を終わります
皆さんも、ヴィクトリア時代の興味深い衣服「Visite」をつくってみませんか




下記にヴィジットに関する過去Tweetを貼っておきます




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