18世紀ロココ朝、男性貴族が着用したコートです
ジュストコールは、17世紀末~18世紀半ばまでに着用された男性貴族のコートです
今回紹介するのは18世紀半ばのジュストコールです
「細身で縦長」のシルエットが特徴です
シャープで洗練されたシルエットがお好みであれば、このジュストコールで間違いないでしょう。
18世紀の肩幅は、極端に狭くつくられます。
寸法だけを見ると驚いてしまうかもしれませんが、ちゃんと着用できる設計になっています。
サイズ表の寸法だけをみると、あまりの小ささに驚かれるかもしれません
肩幅よりも「胸囲」を基準に選ばれることをお勧めします
まずは、ご自身の胸囲にメジャーを当てて、ヌード寸法を出してみてください
胸囲のヌード寸法から「+12~14cm」前後のサイズを選ぶのがオススメです
例えば、ヌードサイズが83cmの場合は、サイズ1または2
92cmの場合は、サイズ3または4
100cmの場合は、サイズ5または6がピッタリになります
例えば、S M Lサイズで表すと下記のようになります。
レディースの場合は「1」がMサイズや9号と同等のサイズ感になります。
普段Lサイズを着ている方は「2」や「3」を選ばれます。
メンズの場合は「3」が、Mサイズの目安となるでしょう。
細身の男性で「1」を選ぶ方もいます。
迷ったときは「大き目のサイズを選ぶ」ことをお勧めしております。
サイズ選びで迷った時は、問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。
サイズ選びの参考にしてください。
また、フィット感が似ている【アビ・ア・ラ・フランセーズの試着動画】も合わせてご覧ください。
動画内で紹介しているアビのサイズに合わせて、ジュストコールのサイズを決めていただいても問題ありません。
それでは、製作した実物と共に【ジュストコールの魅力】を紹介していきます
シルエットは、細身のAラインです。
ジュストコールのボリューム感は年代によって微妙に異なりますが、18世紀半ばではこのようなシャープなシルエットになっています。
前の釦を留めました。
ジュストコールの着こなしで多く見られるのが、ヘソ付近の釦を1、2個だけ留めたスタイルです。
こうすることで、胸にボリュームが生まれ、ウエストや腰回りはより身体にフィットします。
横から見ると、釦を留めたことで表れる「胸のボリューム」がよくわかります。
このように胸が反り立つようにグッと出てきます。
これは18世紀の衣服における特徴的な構造のひとつです。
Nicolas de Largillière (1656-1746), Portrait présumé de Jean André Soubry (1703-1774), vers 1729, huile sur toile, 81 x 65 cm. |
1729年フランスで描かれた肖像画を見てみましょう。
釦を留めることで胸元に空間が生まれ、首や胸にあしらったフリルやレースがより一層際立つのがわかります。
色気のある表情を生み出していますね。
釦を留めることで胸元に空間が生まれ、首や胸にあしらったフリルやレースがより一層際立つのがわかります。
色気のある表情を生み出していますね。
18世紀の紳士服といえば、やはりこの「プリーツ」です。
何重にも折りたたまれたプリーツは、動くたびに揺れ、所作に優雅さをプラスしてくれます。
この部分は、特殊な一枚裁断でつくられます。
近日公開予定の「縫い方動画」で詳しく紹介しますので、制作時はぜひ参考にしてください。
型紙だけですとなかなか悩ましい部分だと思います。
プリーツの横には大きなポケットが鎮座しています。
18世紀の上着のポケットは、プリーツにぶつかってしまうんじゃないかと、心配になるほど大きくつくられています。
18世紀の上着のポケットは、プリーツにぶつかってしまうんじゃないかと、心配になるほど大きくつくられています。
フラップをめくると大ぶりの釦が5個でてきます。
これらの釦は装飾としてつけられています。
なんなら端の釦はフラップに隠れてしまい見えません。
贅を極めたロココ朝ならではの釦使いです。
巨大なカフスも目を惹き付けるディテールです。
1750年ごろまでは、このような巨大カフスの上着が多くみられました。
1750年ごろまでは、このような巨大カフスの上着が多くみられました。
カフスには外側に釦が4個、内側に1個つきます。
中に着るウエストコートと柄を合わせられるように「取り外し可能」だったのかもしれませんね。
巨大カフスと身頃の架け橋となる袖は、細くフィットしたつくりになっています。
細身の袖は、より一層カフスの存在感を際立たせます。
また、肩の丸みにも注目してください。
首、肩、肘までを一続きの緩やかな曲線で描いています。
まさに18世紀を特徴づける甘く優美な造形です。
製作したジュストコールの全体図です。
黒い装飾はすべて「釦ホール」です。
釦同様にたくさんの釦ホールが開いていますが、実際に使用するのは1、2個です。
釦同様にたくさんの釦ホールが開いていますが、実際に使用するのは1、2個です。
釦と同じく飾りなんですね。
それでは、ここから実物の【ジュストコール 】を紹介していきます。
1750年ごろにつくられたジュストコールになります。
ボディは真っ赤なベルベットシルク、カフスは金糸・銀糸・シルクで織られたブロケード、散りばめられた釦48個、釦ホール58個にもすべて金糸が使われています。
まさに贅を尽くしたロココ朝最盛期を体現した1着です。
Portret van Jan Pranger en een tot slaaf gemaakte bediende, Frans van der Mijn, 1742 |
この1742年に描かれた肖像画は、私の所有するジュストコールと瓜二つのデザインをしています。
自信たっぷりにこちらを見据える男は、ヤン・プランガー
1730年から34年まで西インド会社で長官を務めたオランダの奴隷商人です。
1730年から34年まで西インド会社で長官を務めたオランダの奴隷商人です。
中に着るウエストコートと紋様を揃えた巨大カフスは、間違いなくブロケードシルクで織られているでしょう。
そこから顔を覗かせる真っ白なレースも上流階級の証です。
そこから顔を覗かせる真っ白なレースも上流階級の証です。
実際のカフスを手に持つと、ズシリと相応の重みを感じます。
この重量が両の手にあり、かつ純白のレースも合わさるとなると、労働とは無縁であることが理解できます。
だいぶ金銀糸が擦れてしまっていますが、シルクの花びらはまだしっかりと咲いています。
カフスの釦部分です。
この重厚感、写真からも充分に伝わるかと思います。
なんとなく、このカフスの重さが想像できませんか?
花の部分をアップしてみました。
目盛りは1mm単位です。
Suit French 1740s The Metropolitan Museum of Art |
こちらはメットミュージアムのジュストコールです。
ウエストコート、ブリーチズの3点セット。すべて同じ生地でつくられていますね。
ブロケードこそ使われていませんが巨大なカフス、縦長のスラっとしたシルエット、大量に付いた釦、プリーツ&タックが折られたバックスタイルなど、The Justaucorpsといったデザインです。
こちらはロサンゼルス・カウンティミュージアムのジュストコールです。
超ド級に巨大なカフスに思わず笑ってしまいました。
肘を越えて、二の腕付近まで伸びています。
袖口のレースを目立たせるためなのか、ちょっと短めに設定された袖丈もまま見かけます。
ジュストコールを平置きしてみました。
さて、この無数に縫い付けられた特殊な釦ホールをじっくりと見ていきましょう。
約270年の時間が過ぎて、釦ホールはほとんど原型をとどめていません。
金糸が切れてしまい、スチールが露出した状態になっています。
アップで見ると、この釦ホールの構造がよく理解できると思います。
まず、茶色の部分ですが、これは「厚紙」です。
その厚紙の上に乗っている銀色のものが「スチール」です。
そして、スチールを留めるように「金糸」で巻いているのです。
現代の釦ホールとはまったくちがう非常に、いや、異常に手の込んだつくりになっています。
Robert Walpole, 1st Earl of Orford |
初代イギリス首相 ロバート・ウォルポール
例えば、この肖像画の上着に描かれている太い横線の連なり、これは厚紙とスチールと金糸でつくられた釦ホールであると想像ができます。
まさか、そんなものだとは思いもしませんよね。
例えば、この肖像画の上着に描かれている太い横線の連なり、これは厚紙とスチールと金糸でつくられた釦ホールであると想像ができます。
まさか、そんなものだとは思いもしませんよね。
A FINE SILK & METALLIC BROCADED WAISTCOAT, 1740-1750s augusta auction |
こちらが綺麗な状態で残っている釦ホールです。
重厚感が漂う力強いディテールです。
重厚感が漂う力強いディテールです。
釦ホールから顔を出す釦にも注目してみましょう。
これは、木の土台にカップをはめて、その上から金糸で固定しているのです。
一般的に「パスマントリー釦」といわれるものです。
こちらが私の所有するジュストコールの釦です。
かなり複雑な文様が金糸で描かれています。
この釦を、あの釦ホールに留めるわけですから、非常に神経を使うので疲れます。
しかも固いのでなかなか留まらないんですよ。
腰のフラップポケットもこの通り
使わないのに、しっかりと釦と釦ホールが付いています。
使わないのに、しっかりと釦と釦ホールが付いています。
ポケットの口は非常に大きくつくられています。
すっぽりと余裕で手が入ってしまします。
裾のプリーツは、全長は3mを優に超えます。
高価なベルベット生地を惜しみなく使いプリーツがつくられています。
Portrait of Kazimierz Poniatowski (1721–1800), king’s brother |
1776年に描かれたカジミェシュ・ポニャトフスキの肖像画をみると、椅子から溢れんばかりのプリーツの塊が確認できます。
膨大な量の布が使われていたことを想像させます。
半・分解展の会場で、ちょうどサイズが合う来場者の方に着用てもらいました。
Heer met degen, leunend op zijn wandelstok, van voren gezien, Sébastien Leclerc (I), 1685 |
こちらの画は、1685年のスタイルです。
ディテールは私が所有するジュストコールと一致していますが、フィット感はちがいます。
17世紀末~18世紀初頭にかけては、全体的にふわっとした、ゆとりのあるシルエットをしていました。
こんな風なボリューミィなジュストコールも良いですよね。
着るだけで、シャンと背筋が伸びます。
腕も自然と曲がったかたちになってしまうのです。
Verschillende modieuze houdingen van een man, Bernard Picart, 1704 |
こちらは1704年にパリで描かれたファッションスタイル画です。
太陽王ルイ14世の統治下ですね。
ジュストコールのスタイルはもちろんですが、顔がとっても愛らしいです。
男性美の象徴でもあった「ふくらはぎ」を魅せるために、ジュストコールは膝上の丈になっています。
現代の服に比べ、全体的にデザインが下の方についています。
ポケットや、ベントの位置などが低めなのがわかるでしょうか。
ジュストコールの裏側です。
裏にはリネン生地が付けられています。
もしかすると、この裏地は19世紀の初めにお直しされたのでは?と私は勘ぐっています。
真相はわかりませんが、縫い目の雰囲気や全体の感じから、なんとなくそのように思います。
Charles II of England being given the first pineapple grown in England by his royal gardener, John Rose.(1675年) |
最後にジュストコールを発明した人物を紹介して終わります。
イギリス スチュアート朝の国王「チャールズ二世」です。(右側の人物)
「彼を国王と知らない人は、胸の勲章に気付かなければ、ごく普通の一般人だと思ってしまうだろう」
これは当時、君主専属作家だったサミュエル・ピープスがのこした言葉です。
この画からも分かる通り、チャールズ二世は地味な服装を好んだといわれています。
特に自国のウールとリネン素材を愛したそうです。
描かれている服装を観察すると、ウールでできた茶色のジュストコールにリネンのシャツを着ています。(ウエストコートを着ていない?)
時代はフランスの天下。
ルイ14世がヴェルサイユ宮殿で豪奢のかぎりを尽くしていました。
ルイ14世がヴェルサイユ宮殿で豪奢のかぎりを尽くしていました。
父親であるチャールズ一世が、オリバー・クロムウェルによって処刑されたあと、チャールズ二世はいとこであるルイ14世のいるフランスに亡命しました。
そこで目にしたフランス王の姿は、まさに王様そのもの。
クロムウェルの失脚後、イングランドに戻り念願の国王となりますが、王の権限は議会によってきつく縛られていました。
クロムウェルの失脚後、イングランドに戻り念願の国王となりますが、王の権限は議会によってきつく縛られていました。
想像していた王様の生活とはかけ離れ、落胆していたところに襲ってきたのは、ロンドン大火とペストです。
この窮地を脱するべく、チャールズ二世が打ち出したのが「衣服改革宣言」です。1666年10月7日のことでした。
この時に生まれた新しい衣服がジュストコールです。
前時代の短丈上着「ダブレット」に代わる、丈の長いコートでした。
そして、このジュストコールが、そこから約100年間、紳士服の代表的な上着となり、アビ・ア・ラ・フランセーズへと受け継がれていきました。
Doublet 1625-1630 V&A |
1625年 ダブレット
Uniformsrock-, Frankrike. Justaucorps, sannolikt 1680-t. |
まだまだ語り足りない、興味深い歴史のつまった1着なんです。
皆さんもジュストコールの美しさに触れてみてください。
1740年
— 衣服標本家:長谷川 (@rrr00129) December 4, 2021
特権階級の一張羅【ジュストコール】を紹介します
真紅のベルベットシルク
巨大な金糸のカフス
金糸の釦34個と、鋼の釦ホール48個はすべて飾りです
背面のプリーツ長は3m越え
「男性スーツの始祖」となった衣服の、知られざる歴史とあまりに奇妙な構造を紐解いていきます pic.twitter.com/Ib8CNXirQb