Habit à la française

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Habit à la française(アビ・ア・ラ・フランセーズ)
18世紀フランス ロココ貴族が着用したコートです





【 衣服標本 】



【 試作品 】
メルトンウール素材で製作






アビ・ア・ラ・フランセーズを始めとしたフランス革命前後の洋服は、肩幅が極端に小さく設計されています

サイズ表の寸法だけをみると、あまりの小ささに驚かれるかもしれません
肩幅よりも「胸囲」を基準に選ばれることをお勧めします

まずは、ご自身の胸囲にメジャーを当てて、ヌード寸法を出してみてください
胸囲のヌード寸法から「+12~14cm」前後のサイズを選ぶのがオススメです

例えば、ヌードサイズが83cmの場合は、サイズ1または2
92cmの場合は、サイズ3または4
100cmの場合は、サイズ5または6がピッタリになります

迷った場合は、大きい方のサイズを選ぶと良いでしょう

サイズ選びで迷った時は、問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください





ここからは、アビ・ア・ラ・フランセーズの特徴的なデザインである「袖」と「プリーツ」に焦点をあて紹介します



【 極端に湾曲した袖 】

アビに袖を通すと腕が自然に持ち上がり、これからダンスでも踊るかのような姿勢に矯正されます
ダンスのみならず、例えば馬に跨っていたとしてもこの袖は快適な手綱捌きを約束してくれるでしょう


18世紀フランス貴族の宮廷舞踏として「バロックダンス」は栄華を極めます
そして同時に「近代乗馬」が確立された時代でもありました

現代の真っ直ぐに落ちる袖は大量生産の時代(1930年代)に誕生し、マネキンのうえでは綺麗にみえるかもしれません
対照的にアビ・ア・ラ・フランセーズの湾曲した袖は、人間が着て動いたときにその真価が発揮されます
ロココ時代の文化と歴史に根付いた造形といえるでしょう






【 幾重にも折られたプリーツ 】

裾に施されるプリーツは、アビ・ア・ラ・フランセーズのバックスタイルを決める重要なデザインポイントになります
贅沢に布をつかって折り畳まれたプリーツの全長を計ると、なんと「3m60cm」にも及びます


このミユフィール状のプリーツもまた、単なる装飾ではなく「所作に付随する美しさ」を表現しているのです

バロックダンスのかろやかなステップに呼応し、プリーツもまたプリエ、エルヴェの揺れを刻みます

颯爽と駆け抜ける乗馬姿にも風を切りなびくプリーツが馬術をより優雅に、より大胆に演出してくれることでしょう


一見すると、だたの派手な昔の洋服に映るかもしれませんが、それは間違いです
実際に触れて、着てみることで華美にみえるデザインが機能的な意味も含んでいることに気が付きます
まさに18世紀の貴族文化の所作を「最も美しく魅せる構造」になっているのです







250年前の衣服には、ただ見るだけでは到底わからない
袖を通した者だけが「触覚で知る美しさ」が宿ります



この動画内では「型紙の特徴」や「縫製のコツ」を解説しています







172cm 62kg 「サイズ3」を着用
上記Youtube内で着用しているものと同じです

サイズ3がジャストサイズです
ゆったり目に着るならサイズ4を選んでも良さそうです





 薄手の素材で製作した「サイズ3」を着用











153cm女性 「サイズ0」を着用
普段着る洋服はXS~Sサイズ

サイズ0がピッタリです

















160cm女性 「サイズ1」を着用
普段着る洋服はM~Lサイズ

胸がある方なので胸周りが少しきつい印象です
その他はちょうど良さそうです





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152cm女性 「サイズ1」を着用
普段着る洋服はS~Mサイズ

サイズ1がピッタリです





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190cm男性 「サイズ7」を着用
着丈や袖丈のバランスは、ちょうど良さそうです
ただ、背中はもう少しフィットさせても良いでしょう







【 作例:薄手のアルパカウール 】

シャツ感覚で、薄手の生地でつくるのも おすすめです
作例は、洗いをかけたアルパカウールで仕立てたものです
かろやかな着心地と自宅で洗濯できる利便性が特徴です



【 作例:ロング丈にアレンジ 】

大胆にロング丈にアレンジしてしまうのもアビ・ア・ラ・フランセーズにはおすすめです
ロココ時代の紳士服は21世紀における「
女性らしさ」を感じさせるデザインです
丈を長くすることで、よりプリーツが栄えて上品に着こなすことができるでしょう



153cm女性 「サイズ1 ロング丈アレンジ」を着用



【 作例:上半身のみ】

面白いアレンジ例として「上半身のみ」で製作しまうのはいかがですか
アビ・ア・ラ・フランセーズの最大の特徴である「プリーツ」をあえて省くことで、クラシカルなブルゾン風にみせることができます
着てみると想像以上にかわいいバランスで驚きますよ



プリーツが消えてさびしくなった背面には、新たに刺繍を入れてみました



通常、豪華なシルク生地でつくられるアビですが、対照的にゴワゴワの素朴なリネン生地で仕立てました



Instagramで運営する【分 解 図 鑑】では、皆さんが製作したアビ・ア・ラ・フランセーズをご覧いただけます




アビ・ア・ラ・フランセーズは、半・分解展の型紙のなかでも非常に古く個性的な型紙です
ゆえに誰がつくっても「アビらしい」仕上がりになるので、洋裁初心者から上級者の方まで幅広く支持されています

時代的には「くせ取り」など、高難易度の洋裁テクニックが生まれる前の洋服です
なので一見複雑に見えますが、実はスーツなどより、はるかに縫いやすい構造になっています
どちらかといえばシャツやブラウスのつくりに近いのでしょう

アビに惚れてしまった方は、その「熱意」が完成への最短距離です
失敗も楽しみながら、ぜひ挑戦してみてください



ここからは、アビ・ア・ラ・フランセーズのディテールに迫ります

【 大ぶりな釦 】

装飾美が重要視されたロココ時代によく見られたデザインです
釦はその機能性よりも、大きければ大きいほど、輝けば輝くほどに良いとされていました



【 くるみ釦 】

この大きな釦は「くるみ釦」と呼ばれる構造です
ただし、現代のくるみ釦とはまるで違う、非常に手の込んだつくりになっています
銀糸を織ってつくった布を、木製の土台にくるんでいるのです



【 くるみ釦のアップ 】

銀糸の織模様がわかるでしょうか
4本づつ交差するように織られています
さらに目を凝らせば、銀糸のなかに「芯糸となる生成りの糸」が顔を覗かせているのを確認できます
芯糸の周りに銀糸をくるくると巻き付けて1本の糸にしているのですね



【 くるみ釦の裏側 】

銀糸織りの布単体では釦の造形がつくれません
そこで、丸く加工した木の土台をなかに仕込み、その土台を包み込むように麻糸で引きながらくるんでいきます

これほどまでに手の込んだ釦が、1着のアビ・ア・ラ・フランセーズに24個付きます
アビを1着縫うのと、この釦を24個つくるのは、はたしてどちらが大変なのでしょうね



【 釦の存在意義 】

アビ・ア・ラ・フランセーズは基本的に、前を開けて着用します
18世紀における最重要衣服は中に着ている「ウエストコート」です

つまりアビは、絵画でいうところの額縁のような存在です
主役の絵を引き立たせるための脇役に過ぎません
ゆえに釦も、開閉機能よりも「装飾性」が優先されたのです



【 後方に下がった肩線 】

アンティークウェアに必ずと言っていいほど見られる構造が「後方に下がった肩線」です
私は、この肩の構造はアビ・ア・ラ・フランセーズが起源であると考えています

私は、この肩線が生まれた理由は大きく2つあると仮説を立てました
「前身頃の布面積を削ることなく増大させながら、中に着るウエストコートを魅せるため」
「誇張したなで肩を表現するため」
の2点です
どちらもロココ時代の「洋梨シルエット」を表現するためのテクニックです

現代では後方に下がった肩線を「イセ込み」を多くいれるために用いられることがありますが、当時の実物にはイセ込みなどはありません



【 丸み 】

アビ・ア・ラ・フランセーズには、肩と袖の境界線がありません
現代のスーツは、ちゃんと肩から袖が付いているように見えますがアビはどうでしょうか

まるで、ラグランスリーブのように肩と袖が繋がってみえるのです
平面に置くと、その独特な「丸み」が顕著に現れます
この着心地がどんなものか、気になりませんか



【 ミルフィーユ プリーツ 】




この部分はアビ・ア・ラ・フランセーズを仕立てるうえでの最難関です
最大18枚重なるプリーツは、ミシンの針をいとも簡単に折っていきます


また、ポケットがプリーツのすぐ近くに配置されているため、袋布が干渉しやすいので注意が必要です
縫製のコツは動画で解説しているので参考にしてください

【 真下からみたプリーツ 】

このアングルでアビ・ア・ラ・フランセーズを見ることはまず無いでしょう
贅沢な布のミルフィーユです


【 くり抜きポケット 】

18世紀のポケットといえば「くり抜かれた」かたちが主流です
現代のような「玉縁ポケット」が生まれるのはフランス革命後からです

ただし、労働者階級が着ていたカルマニョールなどは、くり抜きポケットではなく「箱ポケット」になっていました
構造的に強度は圧倒的に箱ポケットのほうが勝るのでその為でしょう



【 分解した上半身 】

まん丸のアームホールは、極端な反身設計によるものです
勘違いされやすいですが、アームホールの前側をくっているわけではありません

【 旧い型紙 と 現代の型紙 】

アビを含め旧い洋服は袖が前振りなので、アームホールも前寄りに付いていると思われがちですが実際には、かなり後寄りにアームホールが付いています
これは胸幅と背幅の比率を求めると明らかになります

上記図は胸囲を基準にして新旧型紙を重ねたものです
薄い線が現代、濃い線が旧い型紙です



【 前振りの袖 】

アビ・ア・ラ・フランセーズの前振り袖の造形は「袖単体」でつくられます
アームホールの設計はそれほど関係ありません

この袖を表現するために必要な最大のポイントは、後袖に「三角の面」をつくれるか否かです

この三角の面が、アビ・ア・ラ・フランセーズの袖には必要不可欠です

【 分解した袖 】

三角の面をつくるためには袖山の設計が要となります
特に「V点」の位置に着目しましょう
SPから後方をシャツスリーブのように製図すると、三角の面が現れてきます



【 分解した下半身 】

当時の生地幅に合わせて、幾重にも折られるプリーツをうまく分断しながらかたちにしています
分断された生地端をみると黄色の「セルビッチ」が確認できます

【 アビのセルビッチ 】

お洒落な黄色をしています
セルビッチを計ると当時の生地幅が計算できます
このアビ・ア・ラ・フランセーズは「約47cmの生地」から製作されていました
この生地は恐らく狭い幅の織機を用いて、手織りで織られています



【 アビ・ア・ラ・フランセーズの表地 】

シルクベルベットの滑らかな肌触りがとても気持ち良いです
小さな白いドット柄にみえる模様は、細かなパンチングです
白い緯糸がドットにみえるのですね



【 マイクロスコープで覗く 】

写真は90度回転していますが、白い緯糸がはっきりと確認できます

【 断面から覗く 】

真横から断面をみると、ベルベットの起毛がよくわかります
白い緯糸が顔をだす部分は短く刈り取られていますね



【 裏面からも覗く 】

表生地を引っくり返して、裏面もみてみます
表の起毛が裏には出ていませんので、みちみちに織られているのがわかりますね



【 裏地のシルクサテン 】

大抵の場合、アビ・ア・ラ・フランセーズは裏地もシルクで仕立てられています
私の所有するアビの裏地はシルクサテンでした
微細な起毛が全身を包み込むリッチな着心地です



【 裏地のセルビッチ 】

裏地のシルクサテンにもセルビッチが確認できます
250年のも時間で色が抜けたのか、淡いピンク色でした
驚くことにセルビッチには「3本の金糸」が織り込まていました
いやはや裏地もここまで贅沢につくるとは流石ロココ時代の貴族様ですね



【 リネンの芯地 】

表地と裏地のあいだには数種類の芯地がはいります
その中でもメインとして使われていたのが「リネン素材の芯地」です

プリーツを支えるための土台や、前端のカーブを綺麗に描くための土台に使われています
リネン特有のハリ感と固さが適していたのでしょう
現代の服ではリネンが芯地として使われることはまずありません



【 リネン芯地のアップ 】

芯地に使うのはもったいないほどのクオリティです
表地などに比べれば粗い織り目ですが、リネンらしいシャリ感がとても気持ちの良い肌触りです




私のアビ・ア・ラ・フランセーズの研究はまだまだ続きます

この構造美と着心地を、もう100年先まで私が伝えます

皆さんもぜひ味わってみてください

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