Spats

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19世紀末ヴィクトリアンの足元を彩った「スパッツ」を紹介します








ブーツトップとスパッツの紹介動画を用意しました。
購入の参考にぜひご覧くださいませ。


着用例:男性
靴のサイズ26cm スパッツのサイズ「3」












着用例:女性
靴のサイズ23.5cm スパッツのサイズ「2」













サイズは1~5まで「5種類」用意しました
およそ22cm~29cmまでカバーできます

ご自身の靴のサイズに最も近い型紙をお選びください
迷われた場合は、大きめを選ぶことをお勧めします

※足首にフィットするつくりです
厚手の靴下や、ボリュームのある靴には合わないのでご注意ください。



また、女性と男性で「ヒールの高さ」が違うため、どちらにもフィットする型紙を用意しております

どのサイズを購入しても、ヒール高「2~4cm」「5~7cm」の両方がセットになっています
ご自身の靴のヒール高に合わせて、使い分けてください


仮に10cmのヒールだったとしても、前ソールが4cmでしたら「6cm」の差寸になるので、この型紙で対応できます


ダウンロード形式は「A4サイズのPDFファイル」です
ご自宅のプリンターまたはコンビニのコピー機で印刷してご使用ください






※ご自身での印刷、縫い代付けができない方には
「印刷、パーツカット、縫い代付け」をした型紙を「配送」いたします


A3サイズの生地が2枚あれば十分につくることが可能です
履かなくなったジーパンなどを再利用しても良いですね




20世紀初頭の実物










今回、紹介するスパッツは1900年初頭にイギリスでつくられたもの
製造メーカーは「Pentagon」です

19世紀末~20世紀初頭はスパッツの黄金期、待ちゆく男女の足元に華を添えました

Spats(スパッツ)は、Spatterdashes(スパッターダッシュ)を短縮した名称です
ヴィクトリア時代の紳士淑女は、ドレッシーなスタイリングの必需品としてスラックスからスカートから、スパッツを覗かせます



元々は、泥や雨水などから革靴を守るためにスパッツを着用しました
そのため素材は丈夫で耐久性のあるスエードや圧縮メルトン、固いキャンバスなどが用いられます

ところが19世紀半ばからスパッツの存在意義に大きな変化が訪れます
この頃から徐々に地面はアスファルトへ変わり、人は馬車から鉄道、車へと移っていきました
清潔になった舗道に、スパッツ元来の機能性は必要ありません



紳士たちは「必要なくなったもの」に新たな意味を授けることで、その価値を高めてきました

ネクタイ、ステッキ、フラワーホール
そして「スパッツ」です


2020年、コロナを受けて
私はスパッツに新たな意味付けを試みます

「チャレンジ」「アレンジ」です



「チャレンジをしましょう」
自粛期間に自炊をした人は多いはずです
ニューノーマルに備えマスクを手づくりした人もいるでしょう

「自らの手でつくる」ことにチャレンジするときです


「アレンジをしましょう」
ただ消費するだけの生活にワクワクはありません
創意工夫を凝らし今あるものと永く付き合いましょう

「自分自身で考えて」自由にアレンジを試してください




マスクやエコバックが縫える方なら、1日あれば完成するでしょう
ちょうどいい難しさです




お気に入りの靴に被せれば...




クラシカルなボタンブーツに変身です
ちょっと肌寒いスリッポンが、冬にも履けるようになりました

手持ちの靴に被せるだけで、ここまで印象が変化します
足にも財布にも、あたたかい名脇役がスパッツなのです




こんな素敵な足元なら、ひと駅分くらい歩きたくなっちゃいます



では、改めて全体を紹介します

外側

オリジナルでつくった「くるみ釦」を目立たせるため、通常は外側に付くバックルを内側へ移動させました
スッキリした見た目になり狙い通りです



内側

内側に移動させたバックルの存在感が、程良いアクセントになりました



靴底

ストラップがぐるりと一周し、スパッツが靴に固定されます
つまりヒールがある靴でないとスパッツを安定させることはできません



20世紀初頭のスタイル
フォーマルなスタイルには、白色のスパッツが合わせられました

あらかじめ、靴とスパッツを合体させた「ボタンブーツ」も存在します
専用のボタンフックを用いて着脱します



ただ、このスパッツ、ネクタイやポケットチーフほどには継承されませんでした

1926年イギリス国王ジョージ5世が、チェルシーフラワーショーの際に「フロックコート」「シルクハット」と共に「スパッツ」を着用せずにモーニングコートという新たな装いで現れ、観客を驚かせました

すると観客たちも真似をして、その場で自身のスパッツを投げ捨てます
ショー会場の茂みのしたにはスパッツが散乱していたそうです...



私はメルトン素材で製作しました
当時、最もスタンダードとされた4つ釦スタイルです

着脱もそれほど大変ではなく現代の日常使いに適したかたちでしょう
(といってもスムーズに左右、計8つの釦を留めるのには慣れが必要)



【表面を開いた状態】




【裏面を開いた状態】
全体に裏地を張りました



下記にて、スパッツを着用するときのコツを紹介します


その1:ストラップは留めておくべし

いちいち「釦を留めて、ストラップも留めて」では時間が掛かり過ぎます
軽快な所作をおこなうためにもストラップは予め留めておきましょう


その2:滑り込ませるべし

着用する際は、ストラップに靴を滑り込ませるようにして通します




滑り込ませたらヒール部分までストラップを移動させます
あとは落ち着いて足首にスパッツを巻きましょう




完成です

1:ストラップを留めておく
2:滑り込ませる

この2点さえ抑えておけばスムーズにスパッツを装着することができます



下記は、ディテールの紹介です
「チャレンジして自分でつくるぞ!」という方は、ぜひアレンジの参考にしてください


【実物のホール部分 裏面】
裏地の使い方が独特で面白いです
細かなミシンステッチと手縫いの不思議なマリアージュ



【長谷川が製作したホール部分】
実物ほど厚い素材ではないため、ホール部分は強度を増すために表地を二重にしています
着脱時に力がかかる箇所なので、ホール部分の設計は丈夫に仕立てましょう




【ストラップを通すバックル部分】
実物はピン付きバックルでしたが、ピン付きだと菊穴ホールを開けるのが面倒なため画像のものにしました




【バックル部分の裏側】
ここも力がかかる箇所なので、付け根には3重のステッチを施しました




【長谷川が製作した釦部分】
「足付き」のくるみ釦を使用しています
釦は「足付き」を選ぶか「根巻き」をしっかりすることをお勧めします
最低でも5mmは釦を浮かせておかないと着脱が大変です




見てください
実物には「貝釦」が付けられています

堅牢なつくりのスパッツにあえて貝釦をつけることで、貝の美しさが際立ちます
機能性を考慮すればメタル釦でも良いはずですが、貝釦を選ぶあたりに「美意識」としてのスパッツの存在意義が感じられます




そして、この「根巻き」が圧巻です
蝋引きした麻糸をつかい、頑丈に縫い付けています
この分厚いフェルト生地に負けない、力強い手仕事です




【実物の裏側】
ネームタグが付いています
その下の数字はサイズ表記でしょう
裏地を剥がしてみると、糊の跡がベトベトと残っていました




【実物の裏側 その2】
内側同様に、外側にくるパーツも糊だらけです
釦とホール部分には特に糊が多く付けられ「補強布」が当てがわれていました




ここからは、私が製作したときの画像を紹介していきます
縫い方の参考にされてください


いきなり工程をすっ飛ばしての、この写真ですいません
ここまでの流れを説明すると

1:裏地を裁断して縫い代を折ります
折るときは型紙をゲージ代わりに使用すると簡単です

2:裏地を表地に縫い付けてから、表地を裁断します
縫い付けてから裁断することで綺麗に仕上げることができます

上記写真は、表地の裁断が完了したところです
「足の甲」と「かかと」のみに8mmの縫い代を残しています




拡大するとこのようになっています
裏地を縫い付けてから裁断すると作業がとても楽で正確になります




片足で3パーツ、計6パーツを組み立てます







「バックル」や「ストラップ」を縫い込みますので、縫い込むための「隙間」を表地と裏地のあいだに空けておきましょう
隙間のなかに差し込んで、頑丈にステッチをします




そして、足の甲部分を縫い合わせました
両端にコバステッチを入れるとシルエットが綺麗に出ます




次に、かかと部分を縫い合わせます
縫い合わせる箇所は、以上2箇所のみです




裏面からみると、このようになっています
実物同様にネームを付けてみました




表にすれば、この通り
あとは「釦付け」と「釦ホール」を開ければ完成です

マスクやエコバックより、少しだけ難しいかな?といった印象です
「洋服を縫う自信はまだないけど、もうちょっと難易度の高いアイテムに挑戦してみたい」
そんな方にスパッツをお勧めします

冬の足元のアクセントに如何でしょうか




アレンジの幅は無限にあります
このようにテープを一周まわしても格好いいと思います



イメージを膨らませたい方や、サイズが心配な方は、まず型紙をテープで貼って試作品をつくると良いでしょう
ふつふつとイメージが湧いてきますよ


最後に長谷川的「型紙のこだわり」を紹介して終わります


まずAの部分「足の甲」のシルエットです
実物は、点線のラインを描いていました
「ぽてっと丸い印象」です

見た目は可愛らしいのですが、靴とスパッツのあいだに空間が生まれるため、歩行時に余分なシワが出やすいというデメリットがありました

そこで私は7mmほど削りシャープな見た目に変更しました
こうすることで余分なシワもなく靴にフィットさせることが出来ます



続いてBの部分
ここはストラップをはめ込む位置です
実物はこの位置が、よりかかと側に付いていました

当時のドレスシューズは、現代に比べヒールが小さい傾向にあります
なのでかかと側にストラップを付けたのでしょう

しかし現代の靴には合わないバランスでしたので、少しだけ前進させました
これだけでフィット感が向上します


以上が私の製作したスパッツの型紙のポイントです
ドレススタイルの装飾品として扱われた歴史に基づきアレンジしました
ボリュームのあるワークブーツなどには合わせ辛い型紙なので、ご注意くださいね


ぜひ、皆さまも製作したスパッツをSNSに投稿してください
創意工夫に溢れたスパッツを見るのが楽しみです


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