Justaucorps

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Justaucorps(ジュストコール)
18世紀ロココ朝、男性貴族が着用したコートです






ジュストコールは、17世紀末~18世紀半ばまでに着用された男性貴族のコートです


今回紹介するのは18世紀半ばのジュストコールです
「細身で縦長」のシルエットが特徴です


ふんわりとした優雅なボリューム感を楽しみたいのであれば、1770年の「アビ・ア・ラ・フランセーズ」がおすすめです。

シャープで洗練されたシルエットがお好みであれば、このジュストコールで間違いないでしょう。

18世紀の肩幅は、極端に狭くつくられます。
寸法だけを見ると驚いてしまうかもしれませんが、ちゃんと着用できる設計になっています。

サイズ表の寸法だけをみると、あまりの小ささに驚かれるかもしれません
肩幅よりも「胸囲」を基準に選ばれることをお勧めします

まずは、ご自身の胸囲にメジャーを当てて、ヌード寸法を出してみてください
胸囲のヌード寸法から「+12~14cm」前後のサイズを選ぶのがオススメです

例えば、ヌードサイズが83cmの場合は、サイズ1または2
92cmの場合は、サイズ3または4
100cmの場合は、サイズ5または6がピッタリになります

全体的に細身のつくりですので、迷った場合は大きい方のサイズを選ぶと良いでしょう。

サイズ選びで迷った時は、問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。


サイズ選びの参考にしてください。



また、フィット感が似ているアビ・ア・ラ・フランセーズの試着動画】も合わせてご覧ください。
動画内で紹介しているアビのサイズに合わせて、ジュストコールのサイズを決めていただいても問題ありません。





それでは、製作した実物と共に【ジュストコールの魅力】を紹介していきます



シルエットは、細身のAラインです。
ジュストコールのボリューム感は年代によって微妙に異なりますが、18世紀半ばではこのようなシャープなシルエットになっています。



前の釦を留めました。
ジュストコールの着こなしで多く見られるのが、ヘソ付近の釦を1、2個だけ留めたスタイルです。
こうすることで、胸にボリュームが生まれ、ウエストや腰回りはより身体にフィットします。



横から見ると、釦を留めたことで表れる「胸のボリューム」がよくわかります。
このように胸が反り立つようにグッと出てきます。
これは18世紀の衣服における特徴的な構造のひとつです。


Nicolas de Largillière (1656-1746), Portrait présumé de Jean André Soubry (1703-1774), vers 1729, huile sur toile, 81 x 65 cm.

1729年フランスで描かれた肖像画を見てみましょう。
釦を留めることで胸元に空間が生まれ、首や胸にあしらったフリルやレースがより一層際立つのがわかります。
色気のある表情を生み出していますね。



お次はバックスタイルにも目を向けてみましょう


18世紀の紳士服といえば、やはりこの「プリーツ」です。
何重にも折りたたまれたプリーツは、動くたびに揺れ、所作に優雅さをプラスしてくれます。


また後身頃にはプリーツのみならず、大きな「タック」も入っています。
この部分は、特殊な一枚裁断でつくられます。
近日公開予定の「縫い方動画」で詳しく紹介しますので、制作時はぜひ参考にしてください。
型紙だけですとなかなか悩ましい部分だと思います。



プリーツの横には大きなポケットが鎮座しています。
18世紀の上着のポケットは、プリーツにぶつかってしまうんじゃないかと、心配になるほど大きくつくられています。



フラップをめくると大ぶりの釦が5個でてきます。
これらの釦は装飾としてつけられています。
なんなら端の釦はフラップに隠れてしまい見えません。
贅を極めたロココ朝ならではの釦使いです。



巨大なカフスも目を惹き付けるディテールです。
1750年ごろまでは、このような巨大カフスの上着が多くみられました。



カフスには外側に釦が4個、内側に1個つきます。
中に着るウエストコートと柄を合わせられるように「取り外し可能」だったのかもしれませんね。



巨大カフスと身頃の架け橋となる袖は、細くフィットしたつくりになっています。
細身の袖は、より一層カフスの存在感を際立たせます。

また、肩の丸みにも注目してください。
首、肩、肘までを一続きの緩やかな曲線で描いています。
まさに18世紀を特徴づける甘く優美な造形です。



製作したジュストコールの全体図です。
黒い装飾はすべて「釦ホール」です。
釦同様にたくさんの釦ホールが開いていますが、実際に使用するのは1、2個です。
釦と同じく飾りなんですね。





それでは、ここから実物の【ジュストコール 】を紹介していきます。
1750年ごろにつくられたジュストコールになります。




ボディは真っ赤なベルベットシルク、カフスは金糸・銀糸・シルクで織られたブロケード、散りばめられた釦34個、釦ホール48個にもすべて金糸が使われています。
まさに贅を尽くしたロココ朝最盛期を体現した1着です。


Portret van Jan Pranger en een tot slaaf gemaakte bediende, Frans van der Mijn, 1742

この1742年に描かれた肖像画は、私の所有するジュストコールと瓜二つのデザインをしています。



自信たっぷりにこちらを見据える男は、ヤン・プランガー
1730年から34年まで西インド会社で長官を務めたオランダの奴隷商人です。



中に着るウエストコートと紋様を揃えた巨大カフスは、間違いなくブロケードシルクで織られているでしょう。
そこから顔を覗かせる真っ白なレースも上流階級の証です。



実際のカフスを手に持つと、ズシリと相応の重みを感じます。
この重量が両の手にあり、かつ純白のレースも合わさるとなると、労働とは無縁であることが理解できます。



だいぶ金銀糸が擦れてしまっていますが、シルクの花びらはまだしっかりと咲いています。



カフスの釦部分です。
この重厚感、写真からも充分に伝わるかと思います。
なんとなく、このカフスの重さが想像できませんか?



花の部分をアップしてみました。
目盛りは1mm単位です。


Suit French 1740s The Metropolitan Museum of Art

こちらはメットミュージアムのジュストコールです。
ウエストコート、ブリーチズの3点セット。すべて同じ生地でつくられていますね。

ブロケードこそ使われていませんが巨大なカフス、縦長のスラっとしたシルエット、大量に付いた釦、プリーツ&タックが折られたバックスタイルなど、The Justaucorpsといったデザインです。



こちらはロサンゼルス・カウンティミュージアムのジュストコールです。
超ド級に巨大なカフスに思わず笑ってしまいました。
肘を越えて、二の腕付近まで伸びています。
袖口のレースを目立たせるためなのか、ちょっと短めに設定された袖丈もまま見かけます。



ジュストコールを平置きしてみました。
さて、この無数に縫い付けられた特殊な釦ホールをじっくりと見ていきましょう。



約270年の時間が過ぎて、釦ホールはほとんど原型をとどめていません。
金糸が切れてしまい、スチールが露出した状態になっています。



アップで見ると、この釦ホールの構造がよく理解できると思います。
まず、茶色の部分ですが、これは「厚紙」です。
その厚紙の上に乗っている銀色のものが「スチール」です。
そして、スチールを留めるように「金糸」で巻いているのです。

現代の釦ホールとはまったくちがう非常に、いや、異常に手の込んだつくりになっています。


Robert Walpole, 1st Earl of Orford

初代イギリス首相 ロバート・ウォルポール
例えば、この肖像画の上着に描かれている太い横線の連なり、これは厚紙とスチールと金糸でつくられた釦ホールであると想像ができます。
まさか、そんなものだとは思いもしませんよね。


A FINE SILK & METALLIC BROCADED WAISTCOAT, 1740-1750s augusta auction

こちらが綺麗な状態で残っている釦ホールです。
重厚感が漂う力強いディテールです。



釦ホールから顔を出す釦にも注目してみましょう。
これは、木の土台にカップをはめて、その上から金糸で固定しているのです。
一般的に「パスマントリー釦」といわれるものです。



こちらが私の所有するジュストコールの釦です。
かなり複雑な文様が金糸で描かれています。

この釦を、あの釦ホールに留めるわけですから、非常に神経を使うので疲れます。
しかも固いのでなかなか留まらないんですよ。



腰のフラップポケットもこの通り
使わないのに、しっかりと釦と釦ホールが付いています。



ポケットの口は非常に大きくつくられています。
すっぽりと余裕で手が入ってしまします。



裾のプリーツは、全長は3mを優に超えます。
高価なベルベット生地を惜しみなく使いプリーツがつくられています。


Portrait of Kazimierz Poniatowski (1721–1800), king’s brother

1776年に描かれたカジミェシュ・ポニャトフスキの肖像画をみると、椅子から溢れんばかりのプリーツの塊が確認できます。
膨大な量の布が使われていたことを想像させます。



半・分解展の会場で、ちょうどサイズが合う来場者の方に着用てもらいました。


Heer met degen, leunend op zijn wandelstok, van voren gezien, Sébastien Leclerc (I), 1685

こちらの画は、1685年のスタイルです。
ディテールは私が所有するジュストコールと一致していますが、フィット感はちがいます。
17世紀末~18世紀初頭にかけては、全体的にふわっとした、ゆとりのあるシルエットをしていました。
こんな風なボリューミィなジュストコールも良いですよね。



着るだけで、シャンと背筋が伸びます。
腕も自然と曲がったかたちになってしまうのです。




Verschillende modieuze houdingen van een man, Bernard Picart, 1704

こちらは1704年にパリで描かれたファッションスタイル画です。
太陽王ルイ14世の統治下ですね。
ジュストコールのスタイルはもちろんですが、顔がとっても愛らしいです。
男性美の象徴でもあった「ふくらはぎ」を魅せるために、ジュストコールは膝上の丈になっています。



現代の服に比べ、全体的にデザインが下の方についています。
ポケットや、ベントの位置などが低めなのがわかるでしょうか。



ジュストコールの裏側です。
裏にはリネン生地が付けられています。

もしかすると、この裏地は19世紀の初めにお直しされたのでは?と私は勘ぐっています。
真相はわかりませんが、縫い目の雰囲気や全体の感じから、なんとなくそのように思います。


Charles II of England being given the first pineapple grown in England by his royal gardener, John Rose.(1675年)


最後にジュストコールを発明した人物を紹介して終わります。
イギリス スチュアート朝の国王「チャールズ二世」です。(右側の人物)

「彼を国王と知らない人は、胸の勲章に気付かなければ、ごく普通の一般人だと思ってしまうだろう」

これは当時、君主専属作家だったサミュエル・ピープスがのこした言葉です。

この画からも分かる通り、チャールズ二世は地味な服装を好んだといわれています。
特に自国のウールとリネン素材を愛したそうです。
描かれている服装を観察すると、ウールでできた茶色のジュストコールにリネンのシャツを着ています。(ウエストコートを着ていない?)

時代はフランスの天下。
ルイ14世がヴェルサイユ宮殿で豪奢のかぎりを尽くしていました。

父親であるチャールズ一世が、オリバー・クロムウェルによって処刑されたあと、チャールズ二世はいとこであるルイ14世のいるフランスに亡命しました。

そこで目にしたフランス王の姿は、まさに王様そのもの。
クロムウェルの失脚後、イングランドに戻り念願の国王となりますが、王の権限は議会によってきつく縛られていました。

想像していた王様の生活とはかけ離れ、落胆していたところに襲ってきたのは、ロンドン大火とペストです。

この窮地を脱するべく、チャールズ二世が打ち出したのが「衣服改革宣言」です。1666年10月7日のことでした。
この時に生まれた新しい衣服がジュストコールです。
前時代の短丈上着「ダブレット」に代わる、丈の長いコートでした。

そして、このジュストコールが、そこから約100年間、紳士服の代表的な上着となり、アビ・ア・ラ・フランセーズへと受け継がれていきました。

Doublet 1625-1630 V&A
1625年 ダブレット


 Uniformsrock-, Frankrike. Justaucorps, sannolikt 1680-t.
1680年 ジュストコール


まだまだ語り足りない、興味深い歴史のつまった1着なんです。

皆さんもジュストコールの美しさに触れてみてください。

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