Hussar

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Hussar(ユサール)
1800年代後期 フランスの軽騎兵が着用した1着です
別名「肋骨服」












作例:メルトン素材










サイズ表の寸法だけをみると、肩幅の小ささに驚かれるかもしれません
19世紀の衣服は、現代に比べ肩幅が小さく設計されています
しかし、ちゃんと着用できる設計になっているのでご安心ください

肩幅よりも「胸囲」を基準にして、サイズを選ばれることをお勧めします

まずは、ご自身の胸囲にメジャーを当てて、ヌード寸法を出してみてください
胸囲のヌード寸法から「+12~14cm」前後のサイズを選ぶのがオススメです

例えば、ヌードサイズが83cmの場合は、サイズ1または2
92cmの場合は、サイズ3または4
100cmの場合は、サイズ5または6がピッタリになります

サイズ選びで迷った時は、問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください




サイズ選びの参考になりますので、試着動画をぜひご覧ください↑


172cm 62kg サイズ3を着用
ジャストサイズです











誇張した「なで肩」に、力強い「鳩胸」の造形美
軍服らしい威圧感が漂う1着です

ウエストから胸にかけて走る斜めダーツ、ほどよく丸みを帯びた裾のライン
男くささの中にも ” 色気 ” が漂うシルエットです




威圧感を纏うために必要不可欠な構造が「傾き」です
上の写真、釦の開け閉めで洋服のシルエットが大きく変化します
これこそが100年前に失われた傾きの構造です



「傾きの構造」に関しては、動画でも解説しております
より深く理解したい方は、ぜひご覧ください




傾きの構造に加え、裏地に叩きつけた「増し芯」も、造形美の構築に必要不可欠な技法です
粗い麻生地のなかにフェルトを仕込み、裏地とサンドイッチするようにミシンステッチで固めます
増し芯を留めるステッチは、大抵の場合「一筆描き」で行われます




こちらは別のフランスの軍服ですが、ユサールと同型の増し芯(茶色のもの)が確認できます
増し芯は、ヘソから始まり肩周りまでを囲み、固めます
こうすることで上半身の理想的なシルエットが構築でき、また下半身は動きを妨げないようにとヘソで切られているのです



153cm女性 「サイズ0」を着用
ジャストサイズです


















170cm 9号サイズの女性
「サイズ1」を着用 ジャストサイズです









しっかりと絞ったウエストは、女性のラインにも馴染みます




ここからは、ディテールに注目してみましょう
興味深いディテール満載なのが、ユサールの魅力です




まずは「胸の隠しポケット」
胸飾りロシアンブレイドのなかに上手く隠しながら縫われています
物によっては腰のロシアンブレイドのなかにもつくられ、計4つの隠しポケットがあるユサールも存在します




実物にもこの通り
しっかりと隠しポケットが設けられています
内地に残した家族の写真を忍ばせていたのでしょうか...




続いては「隠しソードスリット」
腰の側章の縫い目のあいだに隠すようにスリットがつくられています
あまりに巧妙に隠されているため、言われなければ気付きません
ソードスリットはスリットタイプ(切込み型)が主流ですが、ベントタイプ(裾まで切り抜かれている)も存在します



「腰の側章」に注目してみましょう

よく見ると側章の縁仕上げにも「職人技」が隠されているのです
画像左の先端部分、固いテープが鋭角に処理され非常にシャープな見た目をしています
アイロンで普通に折るだけでは、こんなにも鋭く仕上げることはできません

画像右の「先端の内部」を覗いてみると、なんと表地に切込みを入れてテープを裏側に流し込んで処理をしていました
細部にまで美意識が宿る職人技です



改めて、全体像をご覧ください






サイズ0をレディースのトルソーに着させました



釦の開け閉めのみで生まれる「胸の造形」が最大の特徴です



絞られたウエストから続く、力強い胸の造形美
前方に流れる機能的な袖の設計

計算された「ユサールの構成美」です




1932年フランスの裁断書
こちらには「DOLMAN」という名称で紹介されています

ドルマンは、ユサールを含めた多くの衣服の総称として使われていました
例えば19世紀後半に女性が着用した袖の垂れ下がった衣服もドルマンと呼ばれています
現代のドルマンスリーブの名称は、おそらく女性のドルマンのイメージから来ているのでしょう



お次は、ユサールの歴史と、私が所有するユサールについて説明します


ユサールの発祥は15世紀のハンガリーまで遡ります
軽騎兵の軍服として誕生しました

重騎兵が鎧や盾の重装備に対し、軽騎兵は身軽で小回りの利く軽装備
鎧の代わりに着用したのがユサールでした
剣や槍を装備して戦うことが多かった為に、内臓を守るための防具兼装飾として身頃前面にRussian braid(ロシアンブレイド)と呼ばれる紐を縫い付けています
このロシアンブレイドが肋骨のように並んでいる見た目から、日本では「肋骨服」の異名で呼ばれます




19世紀に入るとユサールは、その男らしい見た目と装飾性から、軽騎兵の制服にのみならず幅広く浸透していきました
特に豪華に着飾ったナポレオン時代には、ユサールを着たいがために軽騎兵への入隊を希望する若者もいたそうです
(※現代では、漫画「ゴールデンカムイ」の影響でユサール人気がじわじわと高まっているとのこと)



1800年代後半に撮られたユサール




そして、私の所有するユサールと、ほぼ同型のユサールを着た写真を発見しました
相違点は袖口の3本ラインの有無くらいです
ロシアンブレイドの本数と編み込みのデザイン、肩章の有無、腰ポケットのかたち、衿章のかたち、衿と袖口のベルベット使いなど、共通するディテールは多数あります

この写真に映る人物は、Ernest Duchenne(アーネスト・デュシェンヌ)
1874~1912年
フランス / パリ生まれの医師であり軍医でした
この写真はおそらく19世紀末に撮られたものと思われます

この写真をきっかけに、改めて私のユサールを調べてみると、やはり「軍医が着用したユサール」だということが解ってきたのです


Credit: Franco-Prussian War: a French army medical officer (1st class) in his uniform. Chromolithograph, c. 1870. Wellcome Collection. Public Domain Mark

こちらの画は、普仏戦争(1870年)の軍服を着たフランス軍の1等軍医官です
私が所有するのもとまったく同じ軍服です




まずは、釦に施されたシンボルマーク
杖に一匹の蛇が巻き付いたデザインをしています
これは「アスクレピオスの杖」と呼ばれ、医学のシンボルとされています
似たもので、杖に二匹の蛇が巻き付いた「ヘルメスの杖」もあり、そちらは商業のシンボルとされています




釦の裏には「PERFECTIONNE PARIS」の刻印がみえます
PERFECTIONNE製の金属釦は、19世紀半ば~20世紀初頭のフランス衣料品に多く見られます




また衿章にも釦同様に「アスクレピオスの杖と月桂樹」が金モール刺繍で施されています
軍医のシンボルに関しては「tenue31」に詳しくまとめられていました
ミリタリードクターの項目には「衿と袖口に真紅のベルベット」「金のアスクレピオスの釦」「金モールとエポレート」が必要と書かれています
まさに、私の所有するユサールと一致するデザインです




分解してみて、さらに驚くことがありました
なんと衿章の内部には「新聞紙」が刺繍の芯として使われていたのです




続けて、肩章も分解してみると...


今度は「ヌメ革」が出てきました
実に面白いつくりをしています

肩章は、取り外しができるように工夫が凝らされています


肩章が乗る肩の部分を見てみると、縦長の布が縫い付けらています
実はこれは「縦長のポケット」なのです
左側には、ほどけてしまっていますが茶色の「糸ループ」も確認できます


つまり、肩章の裏面につく「長いカギホック」と「2つの短いカギホック」は、それぞれポケットと糸ループにドッキングする設計になっているのです


こうすれば、肩章は固定され落ちる心配がありません
階級が変わったときに肩章を交換することもできますし、日ごろのお手入れ?の時に取り外して、丁寧にブラッシングしたのかもしれませんね




2020年、未曽有のパンデミックにより半・分解展が中止となり、私は改めて自分が所有する旧き衣服を深く掘り下げていきました

そして「軍医」が着用したユサールだったということを知り、運命めいたものを感じます
このユサールには、実物を見て触れていただかないと、気付かない魅力が詰まっています

半・分解展は終わりません
這いつくばってでも継続していくので、いつかあなたの手で触れてみてください

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