Coachman's Overcoat

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Coachman's Overcoat(コーチマンズ オーバーコート)
1870年フランス 馬車の運転手が着た堅牢なコートです





質実剛健という言葉がピッタリな静かなる強さを秘めたコートです



目を惹くような派手さはありませんが、思わず見惚れてしまうバックスタイルです
クラシカルなディテールひとつひとつが味わい深い印象をつくりあげています



半・分解展がつくりあげるダブルブレストのコートのなかで、最もクラシックで端正なコートが【コーチマンズ オーバーコート】です

色気のある雰囲気を求めるなら「アメリカ海軍オーバーコート」

重厚感漂う造形を求めるなら「ブリティッシュアーミーオーバーコート」がおすすめです




他のコートに比べ、型紙のパーツ数も多いです
考え抜かれた構造線が、現代にはない造形美を魅せてくれるでしょう



サイズ表の寸法だけをみると、肩幅の小ささに驚かれるかもしれません
19世紀の衣服は、現代に比べ肩幅が小さく設計されています
しかし、ちゃんと着用できる設計になっているのでご安心ください

肩幅よりも「胸囲」を基準にして、サイズを選ばれることをお勧めします

まずは、ご自身の胸囲にメジャーを当てて、ヌード寸法を出してみてください
胸囲のヌード寸法から「+12~14cm」前後のサイズを選ぶのがオススメです

例えば、ヌードサイズが83cmの場合は、サイズ1または2
92cmの場合は、サイズ3または4
100cmの場合は、サイズ5または6がピッタリになります

迷った場合は大きい方のサイズを選ぶと良いでしょう
サイズ選びで迷った時は、問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください


ぜひサイズ選びの参考にされてください















テーラードカラーでつくっても非常に格好良いので、ぜひお試しください



それでは、実際に製作した実物と共に【コーチマンズオーバーコートの魅力】を紹介していきます














釦の開け閉めで、シルエットが大きく変化します
これは他の半・分解展の型紙にも共通する特徴です






同じコートなのに、釦の開閉だけでこれほどにシルエットが変化します

釦を開ければ、フレアーが効いたAラインシルエットが強調され
釦を閉めれば、胸が反り立ち縦長のシルエットが際立ちます

この造形の抑揚美は、試着動画でご確認するのが解りやすいと思います



「召使い/使用人」のためのコーチマンズオーバーコートは、歴史そのものが興味深いのです




使用人は正装時、釦はしっかりと上まで留めました





バックスタイルを構築する背面構造の要「ダルマ」


コーチマンズオーバーコートは、特にバックスタイルが目を惹きます

斜線が引かれた後脇のパーツを日本の古いテーラーでは「ダルマ」と呼びました
あの赤いダルマにかたちが似ているからです
英語では特に名称がなく、旧い製図書には単にサイドボディと書かれていたりします

現代のコートは、左右1枚づつ合計2枚のパーツで背中が構築されることがほとんどですが、コーチマンズオーバーコートは違います

ダルマを含め、合計4枚のパーツが縫い合わされ
更には、後方に下がった肩線も交えながら、複雑に背中の造形をつくりあげます

「ダルマと後身頃」「後身頃と前身頃の肩線」この2箇所で、肩甲骨に向かってダーツ処理がされており背中を包み込む構造になっています

造形をつくるうえで有利に働くダルマですが、デザイン的にもクラシックな印象を与える名脇役なのです



続いて、バックスタイルの味わいを深める「ソードフラップ」


白い点線部は、ソードフラップと呼ばれます
直訳すれば「剣の蓋」となりますが、コーチマンがここに剣を差すことはありません
ソードフラップは装飾的な意味合いとして残されています

古くは17世紀の軍服に装着された剣を差す「剣帯」の名残りのようです
なので軍服にも装飾としてソードフラップは見られます

19世紀末の軍服の製図書においてもソードプラップはすでに装飾としてみなされており、剣を固定するのには別に「ソードスリット」という縫い目を使用します

このソードフラップとダルマが揃ったバックスタイルが、コーチマンズらしさをつくりあげています




バックスタイルだけではありません
フロントにも特徴的なディテールがあります

点線部分の「リバー」です

これはフロックコートやテイルコートなどにも良く見られるパーツですね
日本のテーラーさんだと「タツ」や「ハナ」と呼ぶ方もいます

礼服に付くことが多いので拝絹(はいけん)をつけるためにリバーが必要だと思われがちですが、そんなことはありません
当時の実物をみると、大抵の場合リバーのなかで「胸ダーツ」や「顎ダーツ」といった造形構築がされています

つまり、打ち合いの深い構造のときにリバーがあると、効果的に胸の造形処理ができるのです

コーチマンズオーバーコートも、胸の造形にリバーが一役買っています



リバーとスカート(腰から下のパーツ)のあいだに、釦ホールが設置されていることも多くあります

この場合は、写真のように縫い目を利用した「シームホール」にすることが多いです
普通のホールよりも耐久性があるので、コーチマンズのような堅牢な服にはピッタリですね



シームホールの裏側はこのように処理しています
私は手縫いで仕上げていますが、ミシンのみでも問題なくつくれます



裏地の全体図は、このような感じです
今回はあえて見返しを付けずに、すぐに裏地が縫われた「即裏」仕様で仕上げました

表地に極厚のダブルフェイスメルトンを使用したので、少しでも薄くかるく仕上げるための工夫です




おヘソの上あたりに設置された「チェンジポケット」もコーチマンズらしさが出ています
馬車の運転手が着たコートですから、懐中時計を入れて時間をチェックしていたのでしょう



悪天候にも耐えられるように、衿元は首に吸い付くような詰まったつくりです
しっかりと上まで釦を留めれば、雨や風は入ってきません

このような衿はPrussian collar(プルシアンカラー)と呼ばれ、19世紀において広く見られる衿です



このような「テーラードカラー」の型紙も用意しています



衿のつくりは、実物に習って「衿腰を抜いた」仕上げにしました

実物のコーチマンズオーバーコートは、生地が信じられないくらいに厚く固いので、物理的に衿腰を抜かないと衿が返らないのです

販売する型紙には、ちゃんと衿腰もあるのでご安心ください

本物志向の方は、ぜひ分厚い生地を選んで、衿腰を抜いてみてはいかがでしょう
なかなか楽しいつくりでしたよ












それでは、ここから1870年フランス 実物の【 コーチマンズオーバーコート 】を紹介していきます


使用人の仕事がいかに過酷だったのか・・・それをこのコートが物語っています


半・分解展 所蔵


Met Museum 所蔵





上下にダブルステッチ、左右に三角ステッチがされた「チェンジポケット」
絶妙な位置に設置されています

ただ、この位置だとポケットの深さが5cmくらいしかないので、販売する型紙はもう少し上方へ移動しました


丹念につくり込まれた衿
パイピング部分は、衿が汚れたすぐに取り換えられるように手縫いで簡単に留めてあります

使用人ほど清潔感が求められたのです



そして「衿腰抜き」の仕立て
初見では本当に驚きました
が、素材の特性を理解した実に合理的な方法です

衿を裏側から見たところです

パイピング部分だけ手縫いされているのが解りますか
また、衿先にはフックも付いています



裏地です
腰からしたは、暖かなウールボアが張り巡らされています



後身の裏地です
背中部分もウールボアになっています

このコーチマンズコートには、お尻の隠しポケット「プレイトポケット」が設けられていませんでした



アームホール近くをよく観察すると、芯を留めるための「芯押さえステッチ」がダルマ部分に確認できます

ボアの中にもしっかりと芯が入っているようです



もちろん見返しにも芯押さえステッチは確認できました
そして「クンニョ」も2箇所あります
珍しいダブルクンニョです



半・分解展で、実物に触って、この重量感を味わってほしいです
両手で抱えないと持てないくらいの超重量級のコートです






袖口には連続したステッチが走っています
これはコーチマンズオーバーコートには必ず入るステッチです



当時の製図書をみても、袖口のステッチが確認できます
きっと、擦れやすい袖口を補強するための意味合いもあったのではないでしょうか



「重くて厚い生地を使用すること」
「袖を前方に振ったように縫い付けること」

この言葉は「リヴァリーガイド」という19世紀末イギリスの製図書に書かれていました

もちろんこの言葉の頭には「使用人の服は」が付いています


重くて厚い生地を使うのは、耐久性の他に「見栄え」を重視したからでしょう
重くて厚い生地ならば、例え使用人が代わって体型が違う人になったとしても、肩が不格好に落ちたり、変なシワが寄ったりしません

また、ズシリと身体に掛かるコートの重さが、使用人に緊張感を与えたであろうことは難なく想像できます

前方に振った袖は、まさに労働者の証
労働しやすい設計にされています


とは言っても、前時代17、18世紀には、前方に振った袖は「貴族の証」でもありました

ダンスやハンティングを嗜む貴族の袖は、極端に湾曲していたのです

時代が変われば、美の定義も変わります

現代を生きるあたなには、コーチマンズオーバーコートがどのように映るでしょうか?

ただの使用人のワークウェアには見えませんよね

ぜひ、コーチマンズオーバーコートをあなたらしくアレンジしてください
自信を持っておすすめする、美しいコートです





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